まるでそれは人ごみに紛れたウォーリーの
ようで解りにくい事この上ない
「まぁ、気分はさながら『ウォーリーを探せ』でウォーリーと間違えられた通行人Aみたいなもんか」
そう言って、“兄”は笑った。
――当事者の僕としては、さっぱり笑えないのだが。
今回ばかりは、“兄”を殴りたくなった。八つ当たりだけどね。
それはついこの間の事だ。
いつもと変わらないはずの日常。そう、ここまで何ら変わりなかった日常。
空や風にも異常は見られなかったし、借りた本の返却日だったのもあって、僕は久々に外に出かけた。
今回は分厚い本だったから、集中して読むために少し家に篭っていたのだ。
――健康に悪い、とは一番健康に悪そうな生活をしてそうな人に毎度言われているのだけれど。
丁度、曲がり角に差し掛かったとき。
どん、という鈍い音と軽い衝撃。
勿論僕はいつもの通り空を見上げてた所為で、前なんて全然見てなかった。
その所為で、曲がり角から出て来た人に丁度ぶつかってしまったのだ。
幸いどちらも転びはしなかったから、僕は謝罪をして早々に立ち去ろうとしたのだ。じゃないと面倒だから。
なのに。
「その黒い逆十字っ……お前っ、BLACK†CROSSか?!」
服から想像するに、警官か軍人だろうか。こんなところで何をしているんだろう。
その人は僕を見て、やけに早口で焦ったように何かの名前を告げた。
早口すぎて、僕には聞き取れなかった。
「……はい? ブランドカントリー?」
「おっ、おい! 全員こっち来い! BLACK†CROSSだ!」
「あのー……だからブリリアントロードって」
男が叫ぶと、僕の声を掻き消すほど大きい、規則正しい軍靴の足音がした。
ブランドカントリーもブリリアントロードも、僕は全く聞き覚えが無い。
気付いたら、十数名の軍人に囲まれていた。
「……あの、俺に何か用でしょうか。ぶつかったのなら謝ります」
僕がそういうと、僕とぶつかった軍人は顔を真っ赤に染めて唾を飛ばしながら激昂した。
「煩い黙れBLACK†CROSS! 貴様らの本拠地を掴んで逮捕してやるっ!」
なるべく感情は表に出さないように言ったのだが、少し面倒くさいと思ってることが出たかもしれない。
しかし納得いかないのが、ぶつかったぐらいで何故こんな大騒ぎになるかだ。
軍人だか警官だかに追われるようなこともした覚えが無い。
ていうか本拠地ってなんだ。
「……ちょっと待ってください、俺軍人に追われるようなことしたことありません。
というかブランココンプレックスとか聞いたことないんですけど」
「うっるさーい! 全員かかれーっ!!!」
僕とぶつかった軍人が叫ぶと、他の軍人たちが一斉に腰に下げた銃を取った。
「……人の話を聞かない人だなぁ……めんどくさいし」
溜め息混じりにそう言って、一番近くに居た軍人に駆け寄ったついでに銃を蹴飛ばし、そのままその軍人の顔を蹴り飛ばす。
顔を蹴り飛ばされた軍人は吹き飛んで、壁にぶつかった。
僕にとっては十分な時間だったのだけど、他の人にとってはほんの一瞬の出来事だったらしい。
早業に唖然とした軍人たちにとりあえずお願いする。
「……ええと……手荒な真似とかしたくないんで、お引取り願えま」
パァン。
頬に一筋、熱が走る。
少し離れた所から放たれた、銃弾。
硝煙の臭いがする。
頬から血が、流れる。
血。
甘い、匂い。
歪む。
……駄目だ、流されるな。
ここで流されたら、どれだけの犠牲者が出ると、思ってる。
頬から流れる血を袖で拭い、無理矢理自分を引き戻す。
傷は浅く、出欠も少量だったから、血はもう出ていない。
何とか、なる。
気を取り直して前を見据えて、冷静に考える。
――大丈夫だ、この人数ならすぐに終わる。
「……交渉決裂、ですね」
「……どうしよっかなぁ、この山……」
僕は高々と積みあがった軍人の山を見て、本日二度目の溜め息をついた。
結局何が何だか判らないまま、僕は軍人たちと戦っていた。不本意だったけれど。
ブランドカントリーとかブリリアントロードとかブランココンプレックスとかも、結局何だったのか、真相は闇の中――
だと思ったのだけど。
突然、背後から拍手がした。
振り返ると、淡い灰色の肌に浮かぶ、右頬の黒い逆十字の痣と、純粋さと鋭さを併せ持った紫水晶の瞳が印象的な青年が立っていた。
外見は僕と同じぐらいの年齢。だけど――只者じゃない。
僕の心中を察したのか、彼は軽く肩を竦めた。
「初めましてー」
「こんにちわ。……いつからそこに?」
「交渉が決裂した辺りかな?」
「……そうですか」
――『その黒い逆十字っ……』
軍人の言葉が蘇る。
黒い逆十字、とは、僕の逆十字のロザリオを指していたんだろうか。
そして、僕の目の前に居る青年にも――黒の、逆十字。
神の栄光を恐れぬ、神への不屈なる反逆の意志。裏切り者の、称号。
現世の神。神と同等の、絶対的な力を持つもの。――そう、政府。
……つまり、僕は反政府の人間と誤解されたのだろう。
黒い逆十字から連想できる、反政府組織は――BLACK†CROSS。話にだけは聞いたことがある。
確かBLACK†CROSSの総帥、は、
――『薄い灰色に、紫の瞳。それと右頬の黒い逆十字の痣がトレードマークの、18歳ぐらいのウララー系の男。
そいつが今、政府を賑わしとる反政府組織のお頭なんやて』――
“兄”から知った情報だ。現場の軍人から直で流れてきた情報だと言っていたから、間違いは無いはずだ。
つまり、目の前に居る青年こそが――
「正解。僕が反政府組織“BLACK†CROSS”の総帥、ウラヌスだよ」
……やはり、只者では無い。
“兄”と同じ系統の能力じゃない。サリエルさんから感じるものと同じ――魔力。
「中々鋭いみたいだね、君。
あ、さっきはごめんねー? 僕らの所為で巻き込まれちゃって。それ、外した方が良いんじゃない?」
そう言って彼は僕の頸に下がった黒い逆十字のロザリオを指差した。
僕は首を振って、その提案を却下した。
何があったとしても、これを外すわけにはいかない。それだけは、譲れない。
これは僕の、信念だ。
「そっか、譲れないかー……んじゃあいっそのことBLACK†CROSSに入っちゃう?」
くすくすと笑いながら言っていることから、冗談であることがわかる。
それでも僕は馬鹿正直に首を横に振ったのだけど。
「政府にも反政府にも、どっちにも行く気ないんです。面倒だから」
僕が面倒、と一刀両断すると、ウラヌスさんは一瞬ぽかんとしたあと、噴きだした。
そんなにおかしいことを言っただろうか、と首を傾げていると彼は少し瞳に涙を溜めながら、大笑いして言った。
「面倒くさいってそんなっ……! あはっ、あははははははははっ……そんな正直に言う人初めて見た!
面白いなぁ君! 本当にBLACK†CROSS入らない?! あ、面倒なんだっけ!」
……何がそんなにおかしいのだろう。僕には見当もつかない。
ひーひーと息を荒げながら彼は軽く瞳に溜まった涙を拭った。
「やー、ごめんごめん。大笑いしちゃってさ。
……ところで君、名前は?」
「……パラドックス、です」
「パラドックス……逆説?」
「そうみたいですね。……流浪者の邪悪な逆説、とでも覚えておいてください」
「それまた不吉な名前だね」
そう言って彼はくすくすと笑うと、ふと時計に目をやった。
「あー、もう行かなきゃ。相手してくれてありがとね、楽しかったよ」
「いえ……さようなら」
「うん、機会があったらまた会おう。じゃーねー」
ひらひらと手を振って、彼は駆けて行った。
――嵐が去った後の、静けさ。
嵐は来る前も、去った後も静けさしか残さない。
ちらりと横を見て、僕は溜め息をついた。
「……あーあ、結局どうしようかな……この山……」
嵐が去った後も、軍人の積まれた山はそのままで。
……僕は少し、憂鬱な気分になった。
そう言って、“兄”は笑った。
――当事者の僕としては、さっぱり笑えないのだが。
今回ばかりは、“兄”を殴りたくなった。八つ当たりだけどね。
※ ※ ※
それはついこの間の事だ。
いつもと変わらないはずの日常。そう、ここまで何ら変わりなかった日常。
空や風にも異常は見られなかったし、借りた本の返却日だったのもあって、僕は久々に外に出かけた。
今回は分厚い本だったから、集中して読むために少し家に篭っていたのだ。
――健康に悪い、とは一番健康に悪そうな生活をしてそうな人に毎度言われているのだけれど。
丁度、曲がり角に差し掛かったとき。
どん、という鈍い音と軽い衝撃。
勿論僕はいつもの通り空を見上げてた所為で、前なんて全然見てなかった。
その所為で、曲がり角から出て来た人に丁度ぶつかってしまったのだ。
幸いどちらも転びはしなかったから、僕は謝罪をして早々に立ち去ろうとしたのだ。じゃないと面倒だから。
なのに。
「その黒い逆十字っ……お前っ、BLACK†CROSSか?!」
服から想像するに、警官か軍人だろうか。こんなところで何をしているんだろう。
その人は僕を見て、やけに早口で焦ったように何かの名前を告げた。
早口すぎて、僕には聞き取れなかった。
「……はい? ブランドカントリー?」
「おっ、おい! 全員こっち来い! BLACK†CROSSだ!」
「あのー……だからブリリアントロードって」
男が叫ぶと、僕の声を掻き消すほど大きい、規則正しい軍靴の足音がした。
ブランドカントリーもブリリアントロードも、僕は全く聞き覚えが無い。
気付いたら、十数名の軍人に囲まれていた。
「……あの、俺に何か用でしょうか。ぶつかったのなら謝ります」
僕がそういうと、僕とぶつかった軍人は顔を真っ赤に染めて唾を飛ばしながら激昂した。
「煩い黙れBLACK†CROSS! 貴様らの本拠地を掴んで逮捕してやるっ!」
なるべく感情は表に出さないように言ったのだが、少し面倒くさいと思ってることが出たかもしれない。
しかし納得いかないのが、ぶつかったぐらいで何故こんな大騒ぎになるかだ。
軍人だか警官だかに追われるようなこともした覚えが無い。
ていうか本拠地ってなんだ。
「……ちょっと待ってください、俺軍人に追われるようなことしたことありません。
というかブランココンプレックスとか聞いたことないんですけど」
「うっるさーい! 全員かかれーっ!!!」
僕とぶつかった軍人が叫ぶと、他の軍人たちが一斉に腰に下げた銃を取った。
「……人の話を聞かない人だなぁ……めんどくさいし」
溜め息混じりにそう言って、一番近くに居た軍人に駆け寄ったついでに銃を蹴飛ばし、そのままその軍人の顔を蹴り飛ばす。
顔を蹴り飛ばされた軍人は吹き飛んで、壁にぶつかった。
僕にとっては十分な時間だったのだけど、他の人にとってはほんの一瞬の出来事だったらしい。
早業に唖然とした軍人たちにとりあえずお願いする。
「……ええと……手荒な真似とかしたくないんで、お引取り願えま」
パァン。
頬に一筋、熱が走る。
少し離れた所から放たれた、銃弾。
硝煙の臭いがする。
頬から血が、流れる。
血。
甘い、匂い。
歪む。
……駄目だ、流されるな。
ここで流されたら、どれだけの犠牲者が出ると、思ってる。
頬から流れる血を袖で拭い、無理矢理自分を引き戻す。
傷は浅く、出欠も少量だったから、血はもう出ていない。
何とか、なる。
気を取り直して前を見据えて、冷静に考える。
――大丈夫だ、この人数ならすぐに終わる。
「……交渉決裂、ですね」
※ ※ ※
「……どうしよっかなぁ、この山……」
僕は高々と積みあがった軍人の山を見て、本日二度目の溜め息をついた。
結局何が何だか判らないまま、僕は軍人たちと戦っていた。不本意だったけれど。
ブランドカントリーとかブリリアントロードとかブランココンプレックスとかも、結局何だったのか、真相は闇の中――
だと思ったのだけど。
突然、背後から拍手がした。
振り返ると、淡い灰色の肌に浮かぶ、右頬の黒い逆十字の痣と、純粋さと鋭さを併せ持った紫水晶の瞳が印象的な青年が立っていた。
外見は僕と同じぐらいの年齢。だけど――只者じゃない。
僕の心中を察したのか、彼は軽く肩を竦めた。
「初めましてー」
「こんにちわ。……いつからそこに?」
「交渉が決裂した辺りかな?」
「……そうですか」
――『その黒い逆十字っ……』
軍人の言葉が蘇る。
黒い逆十字、とは、僕の逆十字のロザリオを指していたんだろうか。
そして、僕の目の前に居る青年にも――黒の、逆十字。
神の栄光を恐れぬ、神への不屈なる反逆の意志。裏切り者の、称号。
現世の神。神と同等の、絶対的な力を持つもの。――そう、政府。
……つまり、僕は反政府の人間と誤解されたのだろう。
黒い逆十字から連想できる、反政府組織は――BLACK†CROSS。話にだけは聞いたことがある。
確かBLACK†CROSSの総帥、は、
――『薄い灰色に、紫の瞳。それと右頬の黒い逆十字の痣がトレードマークの、18歳ぐらいのウララー系の男。
そいつが今、政府を賑わしとる反政府組織のお頭なんやて』――
“兄”から知った情報だ。現場の軍人から直で流れてきた情報だと言っていたから、間違いは無いはずだ。
つまり、目の前に居る青年こそが――
「正解。僕が反政府組織“BLACK†CROSS”の総帥、ウラヌスだよ」
……やはり、只者では無い。
“兄”と同じ系統の能力じゃない。サリエルさんから感じるものと同じ――魔力。
「中々鋭いみたいだね、君。
あ、さっきはごめんねー? 僕らの所為で巻き込まれちゃって。それ、外した方が良いんじゃない?」
そう言って彼は僕の頸に下がった黒い逆十字のロザリオを指差した。
僕は首を振って、その提案を却下した。
何があったとしても、これを外すわけにはいかない。それだけは、譲れない。
これは僕の、信念だ。
「そっか、譲れないかー……んじゃあいっそのことBLACK†CROSSに入っちゃう?」
くすくすと笑いながら言っていることから、冗談であることがわかる。
それでも僕は馬鹿正直に首を横に振ったのだけど。
「政府にも反政府にも、どっちにも行く気ないんです。面倒だから」
僕が面倒、と一刀両断すると、ウラヌスさんは一瞬ぽかんとしたあと、噴きだした。
そんなにおかしいことを言っただろうか、と首を傾げていると彼は少し瞳に涙を溜めながら、大笑いして言った。
「面倒くさいってそんなっ……! あはっ、あははははははははっ……そんな正直に言う人初めて見た!
面白いなぁ君! 本当にBLACK†CROSS入らない?! あ、面倒なんだっけ!」
……何がそんなにおかしいのだろう。僕には見当もつかない。
ひーひーと息を荒げながら彼は軽く瞳に溜まった涙を拭った。
「やー、ごめんごめん。大笑いしちゃってさ。
……ところで君、名前は?」
「……パラドックス、です」
「パラドックス……逆説?」
「そうみたいですね。……流浪者の邪悪な逆説、とでも覚えておいてください」
「それまた不吉な名前だね」
そう言って彼はくすくすと笑うと、ふと時計に目をやった。
「あー、もう行かなきゃ。相手してくれてありがとね、楽しかったよ」
「いえ……さようなら」
「うん、機会があったらまた会おう。じゃーねー」
ひらひらと手を振って、彼は駆けて行った。
――嵐が去った後の、静けさ。
嵐は来る前も、去った後も静けさしか残さない。
ちらりと横を見て、僕は溜め息をついた。
「……あーあ、結局どうしようかな……この山……」
嵐が去った後も、軍人の積まれた山はそのままで。
……僕は少し、憂鬱な気分になった。
どうしてくれようこの中途半端さ加減。
ちなみにタイトルは適当。
そして総帥がどう見ても似非です。本当に有難うございました。
ちなみにタイトルは適当。
そして総帥がどう見ても似非です。本当に有難うございました。
UP:05/11/29
加筆修正:06/07/01
加筆修正:06/07/01