There will not be that I forget this day throughout the life

 その日、空が澄んでいたのを、覚えている。



 ある日、一人の少年が私の家を訪ねた。
 彼は一晩泊めてほしい、と言ったが、私は一晩と言わず幾らでも居るといい、と言った。
 この町は私にとって耐え難いほどに退屈で、彼が現れたとき、私は彼が私を退屈させないだろうと言う予感めいたものを感じたのだ。
 彼は迷惑になるからと誘いを断ったが、諦めずに誘うと、私の熱意に押されてか、彼は漸く承諾した。

 そして数日を彼と過ごした。
 予想通り、彼との生活は退屈さとは無縁だった。
 自分からは余り話さないが、私が話しかければ応じてくれた。
 彼は放浪しているらしく、今年で始めてから8年目になるらしい。
 そしてその旅先での話を彼は私に聞かせてくれた。
 その話の合間にふわりと見せる微笑が、私は好きだった。
 旅先の話だけではなく、様々なことを教えてくれもした。
 彼は博識で、様々なことを知っていた。が、基本的なことが解らないときもあり、そこが外見より老成している彼を少年に見せた。

 彼は何にでも答えてくれたが、ひとつだけ、答えないことがあった。

「ねえ」
「何です?」
「そういえば、旅を始めて今年で8年目になると言っていたけれど、親は心配していないのかい?」

 彼は苦笑して、私を見た。

「秘密です」

 そうしてまた微笑んで、手元の本へ視線を落とした。


 彼は私だけでなく、町の人々とも仲良くなった。
 彼はあまり外に出ない性質らしいのだが、町の子供達が誘えば微笑み一つで承諾した。
 私と出かければ、町の住人から必ず声をかけられる。
 彼は常に穏やかで、彼の傍は居心地が良い。だから皆、彼に集まるのだろう。
 皆彼を好いていたし、彼も皆を、好いていた。


 そんなある日、彼が血まみれで帰ってきた。
 彼自身の血か、他人の血かはわからなかった。
 その日は彼の身体を洗って怪我の処置をして、彼と私は眠りに就いた。

 夜に物音がして起きると、彼は元々少ない荷物を纏めていた。
 私を起こしてしまったことを彼は謝罪したが、私が荷物を纏めていた理由を問うと、苦笑を浮かべ、これ以上ここにはいられない、今までありがとう、と言った。
 何故、と問うても彼は苦笑するだけで、一度頭を下げて、彼は私の家から出て行った。
 家が急に、寂しく感じられた。


※ ※ ※


 それから数日後、町が何者かに襲われた。
 私は丁度遠出をしていたから無事だったが、彼と過ごした家は、壊れていた。
 ぼんやり空を見上げると、彼が来たときと、去ったときと同じように、空は澄んで、星々が瞬いていた。

 今も彼は旅を続けているのだろうか。
 続けているのなら、私と同じ空を、見ているのだろうか。


※ ※ ※


「この街に来る前にね、とても優しい人の家に泊めてもらってたんだ」
「  」
「何日、何十日と一緒に過ごしたんだけど、追っ手が嗅ぎつけてきて、いられなくなっちゃって。
 ……あの人、元気かな」
「  」
「生きてるといい、……な。
 あの人、優しかったから、とても」
「  」
「……そう、だね」
MTに来る前のパラドックスのお話。

お題提供:選択式御題(http://www.geocities.jp/monikarasu/)
UP:06/04/30
加筆修正:06/07/01