01.緩やかな狂気
02.もどかしい。
03.ある日の日常
04.誘蛾灯
05.少年アリス
06.日常哀歌
07.寄り道。
08.花畑
09.紅雨
10.文学デート。
前書き








A section to
Title by Maya Sakamoto [Shonen Alice]
Assume by Takeshi Suyama [Sugao Domei]









 

緩やかな狂気

 ぽつ、ぽつ、ぽつ。
 雨垂れが一つ落ちる度に思い出すのは、あの夜達の記憶。
 目の前で親友が死んで行くのをただ見ているしかなかったあの夜、と。
 最近になって新たに創られた、仇討ちの記憶。

『おまえの所為じゃ、ないって。気にすることなんて、何もない、ただ、オレの運が悪かったんだ』

『そんでおれを殺して、両目違いィ、お前は今度こそ地獄に堕ちるんだぜェ!』

 俺は確かに彼ら、親友と幼馴染を、愛していた。幼馴染の彼が親友の彼を殺さなければ、あの心地好い関係が瓦解することはなかっただろう。そうぼんやり、今になって思う。
 幼馴染を殺したことは後悔していない。ただ、ただ。

「……地獄だ、なぁ……」

 あの幼馴染が自分を殺めてくれたら良かったのに。そうすればこんな風に思い悩むこともなかったのだろう、と思う。
 彼の言葉どおりの現状。これを狙って俺に殺されたなら、あの幼馴染は、とんでもない策士だろう。
 それでも、そう思っても、俺は死ぬことなど出来なくて。
 名前の呪い。必要とされているから。そう、今は、彼女、に。
 言い換えれば、その二つの条件さえあれば、俺はどこまでも生きていける。そういうことだ。

退魔 Paradox=Wicked=Exile,(Hollow=Muffet)
UP:06/06/09
加筆修正:06/07/02
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もどかしい。

 言葉というものは、ひどく難しい、と、いつも思う。
 伝えたい言葉というものは、いつもふわふわと形無く漂い、身を隠す。
 それがひどくもどかしい。
 (故にいつか面倒になって言葉を発さなくなる者もいそうなものだが、俺は見たことはない。)
 だから大切なことはいつだって、言葉に出来ないものばかりなのだ。
 それゆえに俺は何も伝えられない。そう、大切に思うひとたちへも。
 そこまで考えて、

「……らしくあらへん、か」

 と思い直して、俺は思考を遮断した。


Haluka=Stauros
UP:06/06/09
加筆修正:06/07/02
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ある日の日常

「仮面をつけないのは面倒なだけだよ」

 どうせ大方家に篭っているのだ。『他人との関係を円満にする』ための仮面をつける意義がどこにあると言う理屈らしい。
 そう言って、暢気にも“違法者”の少年は欠伸をした。

「……そんだけの理由で、か?」

 ただそれだけの理由のために、わざわざ違法する者がいるだろうか。
 ――まぁ、事実、目の前にいるのだが、それはともかくとして。

「うん。真面目に。
 ……ていうか、貴方は俺みたいな違法者と一緒に居ていいの。誰かに見られたら通報された挙句罰則だよ?」

 そんな今更なことをのたまうな。
 そう少年の言葉を鼻で哂って、俺は言った。

「違法? 犯罪? 誰に向かってゆうとるんや、お前」
「……ご尤もで、過激派テロリストさん」

素顔同盟パロディ Paradox=Wicked=Exile,Haluka=Stauros
UP:06/06/09
加筆修正:06/07/02
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誘蛾灯

 誘蛾灯。
 俺にとって、血はそれだ。
 蛾がその光に誘われるように、それに手を出す瞬間、禁忌だと思う反面、今更だ、とも思う。
 麻薬のようだ。いや、いっそ、麻薬より性質が悪いだろう。
 いつだって“俺”はこの衝動を抑えるのに必死だった。
 そうしていたら、いつの間にか、本能と理性は分離した。
 愉快なまでに行過ぎた、埋めようの無い溝によって分かたれたのだ。


 そんなになるまで、俺を押さえつけ、封じ込めて、大切なものや人間たちを守ろうとした“俺”に吐き気がして、俺は“俺”に反吐を吐いた。



Exile
UP:06/06/09
加筆修正:06/07/02
 

少年アリス

 『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』の結末は、夢落ちだ。
 その言葉だけで締めくくると、ひどく味気なく思えるが、それまでの過程が面白い。勿論締めくくり方も。
 単なる夢落ちではないのだ。
 それでも『アリス』を読むたびに、本と言うものは夢の世界だ、と思い知らされる。もちろん解ってはいるのだが本を読んでいる間はその世界の住人と化しているものだから、つい。

 本を閉じあたりを見回すと、いつもの光景が広がっているだけ。
 外に出ればいつもと変わらぬ友人たちと、路傍に転がる死体、血の匂い。
 そんな平穏が好きだ。現実世界の平穏を愛するが故に虚構世界のスリルを愛する。それが僕という生き物だ。
 ――現実世界でもとんでもないスリルを体験することもあるが。というか、そのほうが多い。

 そして時折、特に『アリス』を読んだあと、誰かを殺すとふと思う。
 これが夢だったら。目が覚めたら僕は普通の人間で、友人たちも普通に暮らしていて。

 それもそれで幸せそうだ、と。
 最後はいつも幸福な“日常”へ還れる少女アリスが、少し羨ましく思えた。
 そう、それがたとえ、夢だとしても。

 そして非日常を日常とした少年アリスは、彼の日常へと戻っていった。

坂本真綾「少年アリス」 Paradox=Wicked=Exile
UP:06/06/09
加筆修正:06/07/02
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日常哀歌

 今日も、恐らくは大勢の、人が死んだ。
 ――厳密には、死んだのではなくて殺された、ということになるのだが。
 この街ではそれが日常。俺も今日、一人殺した。
 俺が今日殺したのは、至って普通の、幸せそうな家族だった。
 どこにでもありそうな、誰からの恨みも買わず、普通の街に住んでいたのなら、普通の生活を送れていたであろう、家族。
 その普通さ故に、この街から疎ましく思われたのだろうか。俺には依頼人の気持ちはわからない。わかる必要もない。
 そう思案していると、ころり、と床に何かが転がった。
 蛍光ピンクの、ゴムボール。
 それはこの一家の一員であった子供が持っていたもので、手から落ちたらしい。
 ゴムだからか、血をはじき、一点の曇りもない姿で俺の前に転がった。
 それを拾い上げてから、俺は小さく後悔した。
 遠い昔に捨てたはずの日常が、俺を苛んだ。

 仕事を終え、暫く経った後ですら、蛍光ピンクのゴムボールは頭の片隅に居ついていた。

Rius=Ivy
UP:06/06/14
加筆修正:06/07/02
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寄り道。

 人じゃない。
 直感だけれど、当たっている。絶対に。


 今日も寝ない子を眠らせようと街に下り、さて寝ない子(えもの)はどこかと目を瞬かせているとき、彼はそれを見つけた。
 ふわりと目を細め佇む彼は、とても凶暴な魔物には見えなかったが、確かに同族(まもの)の匂いがした。
 違えようがない、闇の匂いだ。
 気になって、彼の背後にそっと降り立つと、彼は至極自然な動作で振り返った。

「こんばんわ」


Sandman,Paradox=Wicked=Exile
UP:06/06/15
加筆修正:06/07/02
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花畑

「……うへー」

 どこか呆然と、彼が呟く。
 さてはやりすぎただろうか、と考える。
 加減というものは何とも難しくて、僕にはまだきちんとわからない。
 そんな自分が少し情けなく思えたところで、彼が言う。

「絶景やな。こうゆうん、好きやで、俺は。綺麗やし」

 彼が僕の作った花畑に立って、小さく笑って言うものだから、その瞬間、僕は僕の力が、前よりも、とても誇らしいものなのだと思えた。
 姉さんや花たちに褒められるのも嬉しいけれど、彼が褒めてくれるのもとても嬉しいことを、僕は知った。

Blue Rose,Haluka=Stauros
UP:06/06/15
加筆修正:06/07/02
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紅雨

 ぶちり、と右目を塞ぐ糸を引き千切った。

「てめェ! ンでこんなトコにいんだ!」
「どこに行くかはおれの勝手だろォ? それとも何かァ? 幼馴染の顔見に来ちゃいけねェってかァ?」

 ひゃはは、と奴が哂い、俺はぎりりと奥歯を噛んだ。
 確かにパラドックス・ウィキッド・エグザイルは奴――リスキィ・マーダー・ロックボトムの幼馴染だ。
 だが、俺は何の関係もない。形だけが同じだけの、別人なのだ。
 それを見透かしたように、奴が言う。

「お前の形(ナリ)はよォ、両目違いよりも似てんだ、昔のアイツに。特に、その色違いの両目がきちんと見える辺りとかがなァ……?」

 こいつは時折こうして、正気に戻ったようなことを言う。俺は奴のこういうところが大嫌いだ。

「ふざけんな! 俺はてめェの言う“アイツ”でも何でもねェ。エグザイルっつー存在でしかねェんだよ!
 お前の幼馴染は、パラドックスだ。パラドックス・ウィキッド・エグザイルだ! 間違えんな!」

 腹の奥底にどうしようもない苛立ちが残って、俺は踵を返して扉を蹴り開けて外に出た。
 扉が閉まる前に奴が言う。

「手厳しいなァおい! ひゃはははは」

 声は扉によって、途中で断たれた。

Exile,Risky=Murder=Rockbottom
UP:06/06/15
加筆修正:06/07/02
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文学デート。

「……何それ」

 アーデルハイトを見る彼の目は、完璧に異物や異星人を見るような目だった。
 そんな視線に気付いてか気付かないでか、伊達眼鏡とお下げのウィッグを被ったアーデルハイトはにこりと笑った。

「え、文学少女♥」
「馬鹿?」

 即座に一刀両断。
 アーデルハイトが手の中の本を握りつぶしたのを、パラドックスは目を逸らすことで見なかったことにした。

「アンタとデートするなら文学少女って決めてたのに……!」
「いやわけわかんないし」
「文学少年に合わせるなら文学少女でしょ?!」
「どういう理屈なのそれ?!」

 突っ込んでもノンストップで暴走する彼女の癖は知っているが、突っ込まずにはいられないパラドックスだった、とかなんとか。

ヘイレッグ氏「お休み」 Paradox=Wicked=Exile,Adelheid=Ortrud
UP:06/06/17
加筆修正:06/07/02
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