非認知親子とその友人

「……そういえば君、もしかして今日誕生日かい?」

 不覚にも、古馴染みの言葉で思い出した。
 そういえばそうだった。
 長いこと生きていると誕生日などは忘れてしまうというのは本当なのか、とぼんやり思った。



※ ※ ※



「ねえねえねえねえ」

 にこにこ。
 にこにこにこにこ。
 気持ち悪いぐらいでれでれとした笑顔で、珍しく彼の反感を買う呼び名を呼ばずに男が寄ってきた。
 ちなみにいつもなら禁止ワードと化している呼び名を呼ぶだけで瞬殺である。何故か死なないが。
 彼も珍しく上機嫌なのか、振り返りはしないものの追い払わず、何、とだけ声をかけた。

「私ね、今日ね、誕生日なんだよ!」

 彼は内心それがどうした、と思ったが、面倒なことこの上ないのでそんなことはおくびにも出さず言った。

「へえ、そか、そらめでたいな」

 ぴしり、と空気に亀裂が入る音がした。
 彼はそれを無視し読書を続ける。
 暫しの沈黙が落ちる室内に、ぱらぱらとページをめくる音だけが響く。
 ふるふると震えながら、男が呟く。

「い、い、い、いま、なん、て……?!」

 訊き返す男に、彼は怪訝そうな顔を返す。

「何て、おめでたいな言うたんやんか」

 再び沈黙。

「……それってお祝いの言葉だよねッ?! わあありがとうね可愛い可愛い我が息子、ついに私への愛に目覚め」

 ぱん。
 即座に彼が銃を引き抜き、振り返りもせず無表情で男の眉間を正確に貫いた。
 連続する乾いた炸裂音に、どたりと倒れる音。
 頭をブチ抜かれて倒れた男のどこか恍惚とした笑みを見なかったことにして、彼は男の頭をどかりと踏んだ。男の表情が幸せとでも言いたげにゆがむ。
 彼はそれに苦い顔をしながらも、言葉を紡ぐ。

「どないしたらそーゆー思考に何のか是非とも教えていただきたいわな」
「それはもちろん君への愛が」
「どこぞの不思議生命体愛好家に売りつけてもええんやで手足縛って」
「それは新手の放置プレイかい?! ああもうどうにでもして! 私は君の愛の下僕です君の為なら何でも!」
「死ね」
「それは無理!」

 会話の間に彼は銃を即座にリロードし、再び銃口を男へ向けた。
 へらりと笑う男の眼には入っていないだろうが。

「……やっぱ死ね」

 銃声、計15回。



※ ※ ※



「……で、名誉の負傷かい、それは?」
「名誉の負傷ではなくて愛の証だよエンブリオ。私もうナーシャのためならマゾにでも何でもなるよ!」
「……君も大概、末期だねぇ。よく奥さんに愛想を尽かされないよ」
「カーチェは私の理解者だよ! 失踪されたけどね!」
「…………」

 ふぅ、とエンブリオは溜息を吐く。
 こんな男と血が繋がってたら、自分だってそんな態度をとるに違いない。
 そう思って、心の中で男の息子への届かぬ慰めの言葉を呟くのと同時に、エンブリオは呟く。

「……まぁ、とにかく、誕生日おめでとうかな、ルカ?」

 この上なく子供で変態で駄目人間で超弩級の親バカである男は、満面の笑みでこう言った。

「ああ、ありがとう、エンブリオ」
ルカハピバ。
UP:06/06/29
加筆修正:06/07/02