01.告白
02.打ち明け
03.我儘
04.遭遇
 
前書き








Assume by K.KATO
Thank you!









 

告白

「リウス、宝珠に選ばれた」

 下僕に真っ向切って告げたのは、男の衣服に身を包んだ女。
 今日の天気を告げるかのごとく言われた言葉に、機械のようと言われる流石の彼――リウスも反応が遅れた。

「……は」
「なんだ、もう耳が腐れてきたのか? 引退するには早いぞ。
 宝珠に選ばれたと言ったんだ」
「……、誰が」
「私が」

 主の突飛さには慣れていたと思っていたが、あっさりとされた告白に、リウスはキリキリと胃が痛むのを感じた。しかも眩暈付き。
 呻きそうになるのを何とか堪え、言葉を紡ぐ。

「……それで、貴方は俺に、何をしろ、と……?」

 ゆっくりと、低い声で問われ、女が不満げに軽く顔を顰める。

「解っているのに訊くのか?」
「……確認」

 これ見よがしに溜息を吐き、すい、と白い腕が伸ばされる。
 腕はその細さからは想像も出来ないほどの力でリウスの胸倉を掴み、引き寄せる。

「じゃあ言ってやる。お前は私の騎士になる。そうだな、リウス?」

 つい先程までのどこかつまらなさそうな表情は消え失せ、傲然とした支配者の表情で、彼女は彼に言い放った。
 火の精霊の名を冠す焔の瞳の奥で揺らめく――何者にも縛られず、何事をも楽しむ――享楽主義者の理念の炎は、先程よりも格段に大きくなっている。
 彼女の下僕たる彼は、最初から彼女の逸遊(いつゆう)に付き合う返答しか用意していなかった。

「この命が尽きるまで、御身の傍に在り、御身を守り通すことを、私は私の魂に誓う。
 ……貴方に永遠の忠誠を、宝珠に認められし姫、サリエル」

 その言葉に、上出来だ、と女――サリエルは、嫣然と微笑んでみせた。

Rius=Ivy,Sariel
UP:06/07/03
加筆修正:06/07/18
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打ち明け

「……え? 何でお前を選んだか?」

 怪訝そうに問い返す主に、リウスは一つ頷きを返した。
 少しの沈黙の後、彼の主であるサリエルが、ぽつりと零すように答える。

「……いや、な……あのぽやぽや男も考えはしたんだが、巻き込むのは少しアレかと思ってな……。
 それにあいつ、騎士とかそういうツラじゃないだろう。姫の方が絶対に似合う」

 真顔で断言したサリエルに、リウスは何も言わなかった。






 正確には言わなかったのでなくて、彼も少しそう思っていたから言えなかっただけなのであるが、それはまた別のお話である。

Rius=Ivy,Sariel,(Owl=Travers)
UP:06/07/03
加筆修正:06/07/18
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我儘

「聞いてないッッ!」

 盛大にへそを曲げた主に、リウスの胃は悲鳴を上げた。
 そのうち胃に穴が開く、と最近の彼は半ば確信めいたものを抱いている。

「……そろそろ諦め」
「られるわけないだろうッッ!!」

 先程からずっとこの調子で、彼も思わず溜息を吐く。
 何が問題かと言うと、リウスの主であるサリエルは普段から男装しかしない。
 しかし“宝珠”に選ばれたということになると、話は変わる。
 仮にも王の下へ赴くのだから、少しは姫らしい恰好――つまり、彼女の大嫌いなドレス――をしなくてはならないということになる。
 だがそんなことを露ほども聞いていなかったサリエルはそれに立腹し、今に至るわけだ。

「……サリエル、一番質素なのでいいから」
「全ッッ部フリルがついてるんだぞ?! しかも全部ヒラヒラいやむしろビラビラ! 質素のしの字もないこの中からどう選べと?!」
「……多少は我慢」
「できるかッッ!!!!」

 更に音量を上げた胃の悲鳴と主の怒声に板挟みになり、リウスは本日二度目の溜息を吐いた。


 この数時間後、何とか一番フリルとヒラヒラが少ない、彼女の好きな黒色のドレスを何とか着せた、とか何とか。

Rius=Ivy,Sariel
UP:06/07/03
加筆修正:06/07/18
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遭遇

 僅かに、風が変わる。
 上から、背後から、前方から。
 一般人ではわからない程度に消された気配。
 サリエルは目を閉じ、相手が悪かったな、と心中で嘲笑した。
 瞬間。

 ギィン。

 金属同士がぶつかり、弾く音。
 彼女がゆるゆると目を開けば、左隣にいたリウスは右隣にいた。
 騎士兼下僕の手には暗器。視線の先には見知らぬ男。
 男が高らかに宣言する。

「宝珠に選ばれた姫と騎士よ、貴様らの宝珠、我々が頂く!」

 応、と周囲を囲んでいた他の男達が反応する。
 あまりにむさ苦しい光景に、サリエルは思わず眉間の皺を深めた。

「……何だこいつらは。ムサい」
「……、宝珠団。宝珠専門の盗賊みたいなもの、だ」

 それを聞き、サリエルはその焔色の瞳を前方の男達に向けた。
 先程より細められた瞳、挑むような視線。
 それは紛れもない、支配者の相貌。

「残念ながら、お前達にくれてやる宝珠はない。
 それに、盗賊如きに易々と盗らせてやるほど、私たちは甘くないぞ?」

 彼女の唇が弧を描く。


 刹那、漆黒のドレスと濃藍のコートが翻る。
 ひとつ瞬きした頃には、大半が地に伏していた。
 最初に威勢良く啖呵を切った男すらも。

「ははは、随分視界がすっきりしたな!」

 軽い音を立てて着地したサリエルは、くるりと半回転して周囲を見回し、満足げに笑った。
 彼女より少し離れた場所にいたリウスは無言で彼女に歩み寄り、膝を付いてドレスについた土埃を軽く払う。
 そしてそれが済んだところでサリエルが歩き出し、リウスが後を追うように立ち上がり歩き出す。

「そういえばリウス、さっきの奴らやたら手ごたえなかったな。本当に宝珠団とかいうのなのか? あれ」
「……多分、下っ端とか、なんだろう」
「あー……」

 退屈そうなサリエルを視界の隅に捉え、リウスは小さな小さな溜息を吐く。


 退屈嫌いの姫と、苦労性の騎士。
 二人が目指すは、王の下。

Rius=Ivy,Sariel
UP:06/07/08
加筆修正:06/07/18
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