01.ちびっこフォーク
02.つまりは誇れる幼馴染。
03.酔っ払い珍騒動。
04.珍騒動後日談。
05.紙上正義。
06.激情を映す蒼玉の瞳
07.仲良し同居人ズ+α
08.鴉と鴉。
09.僕らの間に声はなかった。
10.女は怖いよ
 
前書き








A section to
Title by Maya Sakamoto [Shonen Alice]









 

ちびっこフォーク

「子供の夢は、どこへ行くと思う?」

 あいつが問う。
 よくわからない問いだった。
 おれが首を傾げて答えないでいると、あいつが続けた。

「誰も行方を知らないんだ。どこへ行ったかなんて、誰にも解らない。
 お菓子の国かもしれないし、不思議の国かもしれないし、……もしかしたら、憎しみの国かもしれない」
「にくしみのくに?」

 今度はおれが訊く。
 子供はそんな夢を見るのか? その夢の国へ行った子供が眠らないのか?
 ぐるぐると思考がめぐる。

「そう、憎しみの国。そんな国があるから、君たちがいるんだよ。
 子供がそんな夢を見ないように、案内してあげる為に」

 それを聞いて、ひどくしっくりときた。
 今までは単純に寝ない子供がいるから、おれやオスカーがいるんだろうと思っていたんだけど。

「だから、お仕事頑張ってね」

 もう時間でしょ、とあいつが笑う。
 おれは笑って、

「もちろん!」

 と相打った。

Sandman,Paradox=Wicked=Exile
UP:06/06/17
加筆修正:06/07/02
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つまりは誇れる幼馴染。

「……キキ……」

 またかと呆れ顔の幼馴染の顔も、涙で歪む。

「うぅ……ウチかて泣きとおて泣いとるわけやないもん、一種の自然現象やもん!」

 幼馴染が盛大に溜息を吐いてくれる。ぶん殴ったろうか。
 ウチの目線に合うようにしゃがんで、中身に似合わずマメなんか、それとも育て親(ジーヴィ)とウチの教育のお陰か、何でかいつも持っとるハンカチでちいと乱暴にウチの大量発生する涙を拭う。
 手つきは昔の方がずうっと丁寧やったし、昔はもっとずうっと慌てとったけど、こうしてウチの涙を拭うてくれるんは今も昔も変わらへん。
 映る感情こそちゃうけど、暗くて深い暖かなオレンジ色の目も変わらへん。
 昔はウチよりちいちゃかった背も、今ではウチが見上げるくらいやけど、根本的にはなぁんも変わってへん、子供のまま。
 コドモでオトナな幼馴染の男は、ウチの涙を大方拭いて、ウチの頭を子供にするようにぽんぽんと軽く叩いた。

「ほんま昔からTPO弁えずピーピー泣くなぁ、お前。どうゆう構造しとるん」
「ハルカの“こころみ”と同じようなモンや、深う気にせんとき」

 ふーんとかへーとかうーとかあーとか解っとんのか解ってへんのかよう解らん返事を返して、それ以上追求しないことにしたんか、幼馴染が立ち上がる。
 そんでそんままとっとと歩き出すもんやから、ウチは慌てて後を追う。
 長年付き合っている幼馴染相手やとコイツは歩幅を緩めるとかそうゆうことを一切せえへんから、ウチは付いてくのさえ一苦労やけど、間が開いたら多少は待っとってくれるし、そうゆうとこも含めて何だかんだで優しいんやと思う。
 ――本人もウチも、死んでも認めん事実やけども、それはそれで、まあ、つまりは誇れる幼馴染、っちゅーことで。その部分限定でな。

Haluka=Stauros,Kikimola=Kiksik=Masha
UP:06/06/22
加筆修正:06/07/02
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酔っ払い珍騒動。

「パーラ、いるかー?」

 扉を開けた瞬間、独特の臭気が鼻を衝いた。
 なかなか強烈だ。

「ッ……な、んだこれ……酒くさっ……!」

 背後のナイツがぼやく。
 確かにこれは何度も酒の世話になっている俺でも辟易するほどの匂いだ。
 到底この部屋の主には合いそうにもない。

「うにゃ? みぃんなぁ、どぉしたのぁー?」

 奥の部屋の扉が開き、赤い顔でへらへらと笑う部屋の主が顔を出した。
 ……どう聞いても舌が回ってない。

「おま……もしかして、酒飲んでるな? まだ未成年だろ?」

 へらへら笑うパーラと俺の言葉に、ナイツが換気に走る。

「酔ぉってにゃーんかにゃいよぉ? にゃはははははっ♡」

 ばしばしと所構わず叩いてくる酔っ払いの手を何とか防ぎながら、奥の部屋へと足を踏み入れる。
 酒瓶の山。そしてドギツい酒の匂い。
 パーラ自身が進んで酒を飲むはずはないはずだと踏んで、部屋を見回し犯人を捜す。
 ――いた。

「……ハルカッ……!!」

 ソファでぐっすりと寝こけている青髪の青年を、俺は疫病神と認定した。――前々からだけど。
 俺が頭を抱えていると、そこらじゅうの窓を開けてきたナイツが帰ってきた。
 未だにゃははははとありえないぐらい陽気に笑う共通の友人を見て、俺たちは盛大に溜息をついた。

Jullahan,Naights=Maxwell,Paradox=Wikced=Exile,Haluka=Stauros
UP:06/06/22
加筆修正:06/07/02
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珍騒動後日談。

 見舞いに来た俺たちを、友人は今にも死にそうな顔で出迎えた。


「……何ていうか、本当に迷惑かけたみたいで……」

 表情と比例して、声にもいつものような穏やかで涼やかな音はない。
 本人曰く、二日酔いがとんでもなく酷い体質なのだそうだ。
 元凶で、血の繋がりはないが友人の兄というポジションにある男はけろりとした顔だったけども。

「そんなに気にしなくていいって。お前、俺たちが来た後すぐに寝ちまったしな」

 ナイツがすかさず言う。
 俺も慌ててそれをフォローする形で続ける。

「そうそう、吐いたりとかもしなかったし、問題ないって!」

 それでもなおパーラは申し訳なさそうにする。
 今日の彼の思考は顔色と相俟ってか、ネガティブらしい。

「でも、折角きてくれたのに、逆に迷惑かけた、し」
「いや、俺らもいきなり来たし!」
「お互いさまってヤツだって。
 ……まぁ、パラドックスの意外な一面も見れたし、収穫はあったぞ?」

 にやりと笑うナイツに、パーラが一瞬間を置いて己の奇行を思い出したのか、顔を赤くし、布団に突っ伏した。

「……いや、もう、忘れて……」

 昨日のパーラのはっちゃけ具合を思い出して俺も笑ったら、少しだけ睨まれたけれど、それすらおかしかった。

Jullahan,Naights=Maxwell,Paradox=Wikced=Exile
UP:06/06/22
加筆修正:06/07/02
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紙上正義。

 パソコンに向かって、頭に浮上した文字をキーボードを通して画面へ反映させるという作業を延々と繰り返していると、ソファに寝そべっていた男がぼやく。

「……楽しいんか、それ?」

 子供のような問に、私は思わず微笑んだ。
 私の後ろにいる男には見えていないだろうことをいいことに。

「うん、楽しいな。ハマる」

 本を読むことの楽しさは理解できても、書くことの楽しさは理解できないのか、男は溜息を吐いた。

「神か?」

 一瞬何のことかと思ったが、すぐに思い当たる。書くことについてだ。

「そうだな、俺はこの紙上の世界における神だ。
 そして紙上の正義たる探偵に微笑む勝利の女神ってとこ」
「男なんに女神?」
「言葉のあやだよ」

 少しの沈黙の後、男が続ける。

「探偵は何を以て正義とするんや」
「法の下に」

 私の即答に、更に男の不機嫌そうな声が続く。

「……犯人が正しかったら?」

 この街に明確な正義はない。
 だからこその問なのだろう。

「殺人行為は一般的に大罪とされる。犯してはならない罪を犯したら、裁かれるのは大罪人の殺人者、つまり犯人だ。
 殺人行為という大罪の下じゃ、他は微々たる罪だろ?
 ……それに、死体を裁く法律は、残念ながらないしな」

 男がもう一度溜息を吐く。

「……くだらへんな」
「そりゃそうだ、所詮は紙上の空論だし」

 そして私は男の方へ向き、もう一度笑う。

「さて、めでたく脱稿したわけだけども」

Haluka=Stauros,Aristide=Vretblad
UP:06/06/22
加筆修正:06/07/02
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激情を映す蒼玉の瞳

「即刻俺の視界から消えろ」

 俺は言葉を失った。

「……え?」

 俺が思わず声を洩らすと、彼はいつもより幾分低く、苛立ちを滲ませた声で再度勧告する。

「失せろっつったんだ、下衆」

 いつもは見えない蒼玉の瞳に、彼らしくない激情を燻らせる彼に、俺は思わず問い返した。

「……待てよ、パーラ、何言っ」
「俺はパラドックスじゃねェッッ!!」

 いっそ悲痛なまでの怒号に、鼓膜がびりびりと痺れる。
 勢いに思わず伏せた片目をあけると、激昂しこちらを睨みつける彼がいた。

「アイツなんかと、あんなクソ野郎なんざと一緒にすんなッ!」

 ぎり、と臼歯を噛み締める音がする。
 ――彼では、ない?

「お前、パーラ、じゃ」
「身体は正真正銘、お前らの知ってるパラドックス・ウィキッド・エグザイルのモンだろうよ!
 けどな、俺はエグザイルだ。パラドックスと一緒にされるなんざ、反吐が出る!」

 吐き捨てるように言い切り、一呼吸おいて彼は続ける。

「人間も、バケモンも、クソ喰らえだ。
 俺はアイツみたいに、お前らと馴れ合う気なんぞさらさらねェ。
 だから金輪際俺に近付んじゃねえ」

 踵を返し去っていく、パラドックスの形をした男を、俺は追いかけられなかった。
 止めなければいけなかったはず、なのに。

Jullahan,Exile
UP:06/07/18
加筆修正:06/07/18
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仲良し同居人ズ+α

「あ、アリス。はよー」

 ぱたぱたぱた。

「アリス、今日和食と洋食、どっちにする?」
「んー……和食……」

 ぱたぱたぱた。
 小柄な影が駆けていく。
 清潔な白いエプロンが翻る。

「あいよ、和食な? 米と味噌汁と煮魚でええ?」
「ん――――……」

 ぱたぱたぱた。
 小さな少女が台所に一度引っ込み、もう一度顔を出す。

「ああもうアリス、早う顔洗って来ぃ!
 もーいつまでもいつまでもふにゃふにゃふにゃふにゃとッ!」

 ほら、と少女が寝ぼけ眼の青年を洗面所へ追い立てる。
 少女のえらく少女趣味(ファンシー)なエプロンのリボンがふわふわ揺れる。
 青年の寝癖もふわふわ揺れる。

「んー……そんなこと言ったって、締め切り明けなんだ……」
「言い訳は聞かんで!」

 ぱたぱたぱた、と足音がたつ。

「キキがでこちゅーしてくれたら考えるぅー……」
「寝言は寝て言わんかアホウがッ!」

 がす、と痛そうな音が辺りに響く。
 いたそう、というか、絶対痛い。間違いない。
 そしていい加減痺れを切らした俺が言う。

「……お前ら、ほんまに他所でやれッ……!」
「「あれ、いたんだ」」
「人を朝から引きずりこんだんはどこのどいつらやええコラ」

 ……いつか殺ス。

Haluka=Stauros,Kikimola=Kiksik=Masha,Aristide=Vretblad
UP:06/07/18
加筆修正:06/07/18
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鴉と鴉。

 偶然で、突然の出会い。


 ギィン、と、金属同士がぶつかる音が反響する。
 折角の満月は翳り、相手は見えない。
 ただ薄く漂う気配を頼りに、オレはトンファーを振るった。

 何度か打ち付け、振るったのちに、満月が雲間から覗く。

 ――初めて見る、奴だった。
 薄く蜂蜜を溶かし込んだような白い髪に、白い肌、濃藍(こあい)のロングコート。
 長い前髪が瞳を隠し、表情すらも隠していた。
 先ほどの打ち合いでこちらが呼気を乱しているにも関わらず、奴はただ悠然と佇んでいるだけで、オレはほんの僅かな恐怖を覚えた。
 本当に人間なのか、と。
 それを打ち消すように、問う。

「……誰だ、お前」

 男がゆっくりと、小さく口を開く。

「……、闇鴉」

 ともすれば路地の暗闇に溶けてしまいそうなほど小さく呟かれたその通り名に、オレは言葉を失う。
 こんな仕事をしていれば、否が応でも耳にするあの文句を思い出す。
 ――依頼遂行率100%、殺せぬ者はいないとまで言われる暗殺者。
 それが何故、ここに。
 とうの闇鴉はオレの思考など知ったことではないとでも言うように、ゆっくりと空を見上げる。

「……時間、だ」

 その声にはっとして闇鴉がいるはず方を見ると、奴はもういなかった。

「……な、んだったんだ、一体……」

 オレのその問には、ふわりと羽が落ちてきただけだった。
 鴉に似合いの、黒い羽が。

Kray=Dange,Rius=Ivy
UP:06/07/18
加筆修正:06/07/18
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僕らの間に声はなかった。

 雨の日。
 街角、路地裏の一歩手前。
 一人ぽつんと立っている男がいた。
 何をするわけでもなく、ただ空を眺めているだけ。
 ともすれば見逃してしまいそうなほどに薄い存在感。
 こんな雨の中に傘も差さず立っていることにもさほど違和感を感じさせないほどに。
 表情は前髪によって隠れてはいたが、何故かオレには、そいつが、

 泣いているように見えた。

 思わず近くに歩み寄って傘を差すと、男はゆっくりと振り返った。
 濡れた前髪の隙間から、碧(みどり)から赫(あか)へと変わる不可思議な色合いの瞳が覗く。
 表情こそ無く、変わらないが、僅かに驚いているようだった。
 男が口を開き、何か言おうとしたが止め、小さく俯いた。
 それが捨てられた子犬だか、迷子の子供だかに見えて、ふと気がついたら何故か頭を撫でていた。
 慌てて手を引いたが、男はぼんやりとこちらを見上げていて、やはり驚いている風で。
 すると突然男の身体が傾ぎ、膝をつく。
 こちらへ倒れてくる身を反射的に受け止めたときには、既に男の意識はなく、身体はひどく冷たかった。
 そして薄く、鉄錆の匂いがした。

Slaughter,Rius=Ivy
UP:06/07/18
加筆修正:06/07/18
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女は怖いよ

「あれ、先生、何かご機嫌ですね?」

 後輩にあたるタカラ顔の青年医師が、眼鏡をかけた医師に問う。

「ええ、まぁ。来週やっと休みがとれて、友人と遊びにいけることになったんです。それで」
「えっ、先生休み取れたんですかぁ?! いいなぁ……」

 とれたというか、正確にはもぎ取ったなのだが、後輩の中の先輩像を壊さないように黙っておいた。

「あ、ご友人ってもしかして、昨日の電話の人ですか?」

 ……看護士たちの情報網は侮れず、青い髪の医師がかなりくだけた口調で電話をしていたという事実は一日にして広まった。
 プライバシーはどこにいった、と思わず呻きたくなる。

「え、ええ、まぁ……」
「もう女性陣はおおわらわですよー。すんごい憶測が行き交ってますもん。実は友人じゃなくて彼女とか、先生の友人なら美形に違いないとか、色々と」

 後輩のその言葉に、話題の医師は思わず乾いた笑いを浮かべる。

「……僕の人権はどこへ行ったんでしょうか」
「は、はは……ま、まぁ、頑張って下さい……。恐ろしいですから、ウチの女性陣は……」

 白衣の天使が実は白衣の悪魔であるという事実を知っているのは、この病院に半年以上勤めている医師のみである。

 とりあえずは来週までの辛抱と、心の中で後輩を労いながら我慢する程度に、彼は賢明だった。

Ilya=Galavteev(Haluka=Stauros)
UP:06/07/18
加筆修正:06/07/18
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