02 // 歪曲

「……アデルか?」

 ゆら、と前方の影から姿を現したのは、予想通り、無口な悪魔退治屋だった。
 ――彼女は何も、言わない。

「お前の方から出向くなんて珍しいなぁ――何かあったんか?」
「……らくにして。無理して、そんなことば、使わなくていい」

 どこかたどたどしさの残る、柔らかな声。
 表情も瞳も、硬く冷たいのだけれど、声だけはいつも柔らかい、彼女。
 薦めに従って、俺は口調を正す。

「……そう、ですか。何の御用です?」
「ちゅうこく、を」
「――…忠告?」
「そう……。あなたも、ばかじゃあ、ないでしょう。
 じぶんが利用されているってこと、わかっているんでしょう」

 表情も、瞳も、声も揺らがぬまま、彼女はそう言った。
 鮮やかな空色の瞳が、射る。
 あぁ、主の事を言っているのか。

「ええ、知っていますよ。むしろ、利用されて本望ですから」

 そう、そのために。
 利用されるために、俺は在る。

「……なぜ?
 まえの主は、あなたがじぶんの手で、殺したでしょう。それは利用されて、束縛されるのがいやだったから、じゃあないの」

 先代の主――ルカ。
 ゆっくりと、彼との記憶を思い出す。慈しむように、引き裂くように。
 確かに俺は彼を殺した。首を斬って。
 小さく息を吸って、感情を押し殺して、事実を事実とするために、事実を口に出す。

「いいえ、違います。父を殺したのはあの人が俺を愛してくれたから、なんですよ。
 ――俺は、自分を愛してくれた人を殺すんですよ。だから俺を利用するだけの、今の主を殺す理由は、ありません」
「……そう。なら、いいの」
「俺は、人形ですから。
 使われない人形はただの(ゴミ)でしか無いんですよ」
「……おろかね」

 そう、俺は愚かだ。
 救われないぐらいに、救えないぐらいに。
 貴女の様な女性(ひと)には、理解できないかもしれないけれど。

「ええ。私はどうしようもなく愚かなんですよ、アーデルハイト様――」

 歪曲したものは、もう、戻らない、と。
 俺は身をもって知っている。
歪んだ二人、裏ハルカと裏アデル。
愛されたが故に歪んだ“人形”と愛されなかったが故に歪んだ“人形”。

裏A→無口無表情冷静口調たどたどしい(昔のアデルっぽい感じだt(ry)

UP:05/11/11
加筆修正:06/06/30